大判例

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大阪高等裁判所 平成元年(行コ)13号 判決

控訴人

住吉税務署長駒井良一

右指定代理人

小久保孝雄

外四名

被控訴人

永大産業株式会社

右代表者代表取締役

井上良治

右訴訟代理人弁護士

坂本秀文

山下孝之

長谷川宅司

織田貴昭

今富滋

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  申立て

一  控訴の趣旨

1  原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二  主張及び証拠関係

以下に、付加、訂正、削除する以外は原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決の補正

原判決八枚目表一一行目の「裁決を」の次に「いずれも」を加え、同九枚目表六行目の「等や」の次の「、」を削り、同裏五行目の「頁」の次に「参照」を、同一〇枚目表三行目の「事項は、」の次に「前者の密接な関連性が、先行した繰越欠損金の認定の更正がなされれば、更正処分が重大かつ明白な瑕疵のために無効、または、取り消されない限り、次年度以降に右欠損金が繰り越されるため、後年度についてなされる後行処分に当たりこれを所与の前提としなければならないというだけで、決して先行処分を内包、追認、承継するような不服申立制度を排除するまでの密接な関連性を意味するものではなく、また、後者の争点の共通性や判断の変更可能性も、処分の基礎となる事実関係が共通であって納税者の不服の事由も同一であることに帰着するから、本件二次処分の」を、それぞれ加え、同六行目の「当らか」を「明らか」と改め、同一二枚目裏二行目の「開始」の次に「の」を、同一二行目、同一三枚目表七行目の「繰」の次にいずれも「り」を、同一〇行目の「別表四(」の次に「所得の金額の計算に関する明細書、」を、同一一行目の「①欄」の次に「に総額の差引合計後の金額として」を、同末行の「別表五(一)(」の次に「利益積立金額の計算に関する明細書、」を、同裏一行目の「⑤欄」の次に「に翌期首現在利益積立金額の合計額として」を、同七行目の「したがって」の次に「、」を、同一四枚目表五行目の「⑤欄に」の次に「翌期首現在利益積立金額の合計額として」を、同一〇行目、同裏二行目、同三行目、同五行目の「⑤欄」、同八行目、同一〇行目の「①欄」、同一二行目「⑤欄」の次にいずれも「記載の各金額」を、同一五枚目表一一行目の「一の六」の次に「(以下「本通達」という。)」を、同裏六行目、七行目、末行、同一六枚目表四行目の「繰」の次にいずれも「り」を、同二〇枚目裏六行目の「一一五条」、同一二行目の「同条」の次にいずれも「一項」を、それぞれ加え、同二二枚目表四行目の「(一)」を「(1)」と改め、同裏三行目の「しかも」の次に「、」を加え、同五行目の「国税不服審判所」を「国税不服審判所長」と改め、同行の「異なる」の前に「右第一次処分に関する裁決と」を、同一二行目の「本件では、」の次に「被控訴人が、」を同二三枚目八行目の「しても、」の次に「本来は」を、同裏六行目、同末行の「対する」の次にいずれも「被控訴人の」を、同二四枚目表二行目の「繰」の次に「り」を、同一二行目の「記載」の次に「の金額」を、同二五行目裏六行目の「規定」の次に「である本条項」を、同三〇枚目表一一行目の「本件訴訟記録中」の次に「原、当審における」を、それぞれ加える。

二  控訴人の主張の補足

本件訴訟の争点は更生会社における評価益及び債務免除益の発生事業年度の所得計算上、本条項が法五七条に優先して適用されるか否かにあるところ、控訴人は以下にみる理由により本通達が定めるとおり法五七条が優先適用されるべきであると主張するものであり、右通達の解釈は法及び会社更生法の体系的整合性はもとより租税公平主義にも合致し、被控訴人の主張するように租税法律主義の原則に何ら反するものではなく、これに反し、本条項が法五七条に優先して適用されるとする原判決の判断及び被控訴人の解釈は不当である。

1  本条項の解釈

(一) 本条項の立法趣旨について

本条項の立法趣旨は、評価益及び債務免除益(以下、両者を総称する場合は「評価益等」という。)を、税法上の所得計算において益金に算入することは、更生会社の税負担を増大させ、その更生を妨げる一因となりうるため、この課税されるべき評価益等を実質的に非課税所得と同様に扱うべく、更生会社の累積繰越欠損金のうち、法五七条一項、五八条一項による欠損金の繰越控除の適用のない欠損金の(会社更生欠損金)にも繰越控除による損金算入を許容するところにあるから、本条項は、更生会社における所得計算上、法五七条、五八条の補充規定として、右各条の適用によっても会社更生欠損金が残る場合に限り適用され、法五七条、五八条が本条項に優先して適用されるべきものである。

(二) 「益金の額に算入しない」との文言について

被控訴人及び原判決は本条項に「益金の額に算入しない」との文言が用いられていることから、本条項を益金不算入規定と解し、評価益等を算入しないまま所得計算の前提となる益金の額を算出し、さらに、法五七条の適用後の損金の額を右益金の額から控除して所得金額が算出されるとして本条項が当然に法五七条に優先して適用されるとするが、以下にみるとおり、本条項の他の文言のみならず法及び租税特別措置法(以下「措置法」という。)等の関係法令を総合考慮すれば、右解釈は整合性を欠き、採用しがたい。すなわち、まず、法による所得金額の計算は法二二条一項に規定するとおり益金の額から損金の額を控除してなされ、右益金の額は法二二条二項及び別段の定めにより、右損金の額は法二二条三項及び別段の定めにより、それぞれ算出され、右別段の定めは、①益金不算入(収益にして非益金)、②益金算入(非収益にして益金)、③損金不算入(費用にして非損金)、④損金算入(非費用にして損金)の四つに分類されるが、それらが、所得計算過程のどの段階で適用されるかは別に法令等で規定されるべきもので(例えば、寄附金の損金不算入についての法三七条二項及び法施行令七三条一項、二項)、本条項の前記文言自体が適用順序を明らかにしたものとは当然にはいえないものである。本条項と同様の益金不算入の規定は、現行では法二三条(受取配当等の益金不算入)、二五条(資産の評価益の益金不算入)、二六条(還付金等の益金不算入)、二七条(合併差益金のうち被合併法人の利益積立金から成る部分の益金不算入)があり、その性質について検討すると、法二五条の資産の評価益の益金不算入は当該事業年度の所得計算上、当該資産の帳簿価額の増額がなされなかったとみなされ、当該資産の譲渡がなされた後続の事業年度において当該益金不算入額が改めて課税され、右益金不算入は資産の税務調整項目(会社資産の帳簿価額のマイナス金額を申告書別表五(一)に記載するもの)ということができ、法二三条、二六条及び二七条の各規定による益金不算入は、いずれも利益積立金とされ(法二条一八号イ(2))、益金不算入とされた以後の事業年度において当該益金不算入額が改めて課税されることはないもので、さらに、旧法人税法上、益金不算入とされていた額面超過金及び払込剰余金(九条の二)、減資益金(九条の四)及び合併減資益金等のうち合併減資益金から成る部分(九条の五第一項)は、現行法では、個別に益金不算入の規定をおかず、資本等取引に係る収益として益金の定義規定から除かれたうえ(法二二条二項)、資本積立金を構成するとされており(法二条一七号)、以上にみたとおり、同じ益金不算入でも性質を異にし、直ちに非課税の趣旨を導くものとはいえず、そのいずれであるかで後続の事業年度における所得計算を異にするが、本条項による債務免除益の益金不算入がどの種類であるかを明示した規定がないから、本条項を益金不算入の規定と解すると、評価益等の計上事業年度の所得計算が不能になることが生じうる。そのうえ、規定の文言上も、本条項以外の益金不算入規定は、例えば法二三条では「……法人が受ける金額は……益金の額に算入しない」として取引に係る収益を益金の額に算入しないとするなど、いずれも益金の額に算入すべき収益を定めた法二二条二項の原則に先立つ別段の定めとして益金不算入規定が適用され、法五七条に優先して適用されるべきことは明らかであるが、本条項は「……評価換及び債務の消滅による益金……は、益金の額に算入しない」として、主語部分の文言で評価益等の収益が益金の額に算入されることを示す一方で、述語部分の文言で一定の限度で益金の額に算入しないことを明らかにしており(右益金を益金不算入にする文言自体は昭和二七年の会社更生法の制定当時から変わっていない。)、本条項を直ちに他の益金不算入規定と同様に解釈することはできないといわざるを得ない。

仮に、本条項を被控訴人主張の評価益等の益金不算入規定と解すると、評価益等が会社更生欠損金を超える場合に当該事業年度の所得額の確定のために評価益等(例えば、評価益が三五〇万円、債務免除益が四〇〇万円、会社更生欠損金が五〇〇万円)もしくは評価益自体の内部(例えば、建物評価益が一〇〇万円、土地評価益が一五〇万円、会社更生欠損金が二〇〇万円)での益金不算入の順序に関する規定が、会社更生欠損金と青色申告欠損金が併存する場合(例えば、会社更生欠損金が一〇〇万円、青色申告欠損金が一五〇万円、評価益が一〇〇万円、債務免除益が一五〇万円)に本条項による評価益等の益金不算入額と法五七条一項による損金算入額の確定のための規定が、いずれも必要となるが、これらの明文規定は設けられていないうえ、評価益等の計上事業年度につき、もともと、本条項を適用するまでもなく、評価益等が課税されないような場合、すなわち、法五七条一項、五八条一項の適用のある欠損金が評価益等の額を上回る場合や評価益等の額を上回る事業損失があるため当該事業年度の所得金額が欠損となる場合(例えば、五年を越えた会社更生欠損金が二〇〇〇万円、評価益が一〇〇〇万円、当期の事業損失が一五〇〇万円)にも本条項が適用されることとなるが、これは前記(一)でみた本条項の立法趣旨を逸脱することとなり不当である。

さらに、会社更生手続における評価換えは債権者らに対する配当金を捻出する側面を有しており、評価益は更生会社に利益を生じさせることを目的とし、債務免除益も本質的に個々の債権者が債権を失い、これに伴い債務者たる更生会社が個々の債務を免れることで、更生会社に個別的利益を現実に発生させていることは明らかで、現に、被控訴人も損益計算書(〈証拠〉)に計上しているものであり、法二二条二項も、所得計算の前提となる益金とは「別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る……収益の額」として、資産の評価換え、債務免除等も右資本等取引以外の取引に含まれるから、法人税法上は原則的には評価益等が収益で、収益の額に算入すべきところ、強行規定である商法が取得原価主義を採って評価換えを認めておらず、かつ、未実現利益である評価益に課税しても納税資金がなく、評価益計上により欠損金打切りの効果をなくそうとする弊害を避けるため、前記別段の定めとして法二五条一項で評価益である収益の益金不算入を規定し、他方において、右評価益から会社更生法に基づく評価換えによる評価益を除外したもので、これによれば、右評価換えによる評価益は法二二条二項により益金の額に算入すべき収益とされ、会社更生法に基づく債務免除益も、別段の定めがないため、原則どおり法二二条二項により益金の額に算入すべき収益とされるもので、いずれも課税所得を構成するから、評価益等が益金の額に算入されないとする原判決の判示及び被控訴人の主張はこの点においても、不当である。

(三) 本条項の括弧書き部分について

本条項は、欠損金の括弧書き部分で「法五七条一項又は五八条一項の規定の適用を受けるものを除く」と規定し、右括弧書き部分につき、被控訴人は損益通算の対象である会社更生欠損金と法五七条一項による損益通算の対象である青色申告欠損金とを区分し、青色申告欠損金部分の二重控除を排除する注意規定と主張するが、右は本条項の立法趣旨、目的を看過するものであり、法五七条が本条項より優先して適用されることを端的に示すというべく、本条項は法の規定だけでは課税所得が発生する場合に適用され、法五七条の規定が所得金額の計算上最後に適用されることを踏まえ、右括弧書き部分で法五七条の適用を受けるものを除くことを明らかにしたものであり、本条項は評価益等と欠損金の損益通算を意図して立法されており、二種類の欠損金が競合するのを踏まえ、その適用順序を規定したものと解すべきである。

このことは、石炭鉱業会社の所得計算についての措置法六六条の一四の「欠損金額」に続く括弧書き部分で「法五七条……の規定の適用を受けるものを除く」と規定され、法施行規則別表七で法五七条から五九条の欠損金の損金算入をした後に措置法六六条の一四の欠損金の預金算入を行うように計算順序を定めていることに徴すると、同一字句の本条項についても、法五七条の適用後に本条項が適用されるとみるのが自然である。

(四) 所得金額を限度とすることについて

被控訴人は、明文の規定がないのに本条項に定める会社更生欠損金の損益通算限度額を当期所得金額又は評価益等のどちらか少ない金額とすることは文理解釈として不合理で、所得金額を限度とする必要はないと主張するが、本条項の立法趣旨が前記(一)にみたように評価益等を、税法上の所得計算において益金に算入することは、更生会社の税負担を増大させ、その更生を妨げる一因となりうるため、この課税されるべき評価益等を実質的に非課税所得と同様に扱うことにあるから、所得金額を超えて非課税所得とする必要はなく、また、所得金額の限度を超えて所得を非課税とすることはできないものであり、所得金額を限度とすることは、法五七条のような損金算入の場合にはそれが新たな繰越欠損金となる解釈が生じる余地があるため明文で右限度額を設けているものの、本条項を適用するに当たり所得金額の限度を超えて会社更生欠損金の損金算入を行うと法五七条の適用の前に本条項を適用するのと同じ結果となり、本条項がその括弧書き部分で法五七条と本条項の適用順序を定めた意味がなくなり、会社更生欠損金が青色申告欠損金に転化するという許容しがたい結果となることからしても所得金額を限度とすることは明らかである。

(五) 本通達の解釈について

本通達は以下にみるとおり本条項の益金不算入が現行の益金不算入と異質なものであり、その解釈にあたり疑義が生じるおそれがあったため、実務上の処理のため設けられたもので、本条項の文言及び法の所得計算構造を踏まえたうえで、益金不算入を損金算入と解釈しているものであって、租税法律主義に何ら反するものではない。

すなわち、本条項は会社更生法に基づく評価益等に関する「法の特例」として規定されたもので、法二二条二項により評価益等が益金の額に算入されるべきことを踏まえ、「……評価換え及び債務の消滅による益金……は、益金の額に算入しない」と規定して、主語部分の文言で評価益の収益が益金の額に算入されることを示す一方で、述語部分の文言で一定の限度で益金の額に算入しないことを明らかにしており、その括弧書き部分で右評価益等が益金不算入とされるのは法五七条一項、五八条一項の適用後であることを明示したものであるから、更生会社において、評価益等を益金に算入して通常の所得計算を行い、法五七条一項、五八条一項の適用後に本条項を適用して評価益等の益金を益金の額に算入しないこととして最終的な所得金額を算出すべきものとし、評価益等に課税が生じる場合に所得を非課税所得と同様に扱う趣旨であり、法の規定を適用した所得の範囲内で、その所得の構成要素である益金を益金不算入として所得から減算し、非課税目的を達成したもの(なお、所得不発生の場合は本条項の適用自体がない。)で、本通達は本条項の右解釈に基づき評価益等の益金不算入を繰り越された会社更生欠損金の損金算入と解釈するものであり、本条項の益金不算入も本通達の損金算入も法の適用上は何ら変わりがなく、いずれも所得計算過程の減算項目として同質性があり、本条項は評価益等を一定限度で非課税と取り扱うが、右非課税目的は評価益等の益金不算入、欠損金の損金算入のいずれの方法でも同様に達成しうるからこの点でも同質性があるというべきであり、また、これを貸借面でみると、法五七条ないし五九条の繰越欠損金の損金算入額も利益積立金額を構成し(法二条一八号)、当期所得のうち繰越欠損金相当分を結果として非課税所得と同列に扱うとの趣旨であるから、これと同様に本条項を繰り越されている会社更生欠損金の預金算入規定と解しても非課税の利益積立金を構成し、他方、評価益等の益金の益金不算入と解しても、非課税にされた金額のうち留保された金額として利益積立金を構成するから、同様に非課税とする目的を十分達成できるもので、両者の違いは、単なる表現の違いにすぎないといいうる。

被控訴人は、税法上の損金は一定の利益の存在、確定を前提とし、法五七条のような利益の限度で損金を算入すべき旨の文言が必要であり、右文言のない本条項を損金算入規定とは解しえず、仮に評価益等を損金算入の限度としても、評価益等の益金は、まず、法五七条の損益通算の対象となり、評価益等の全額が会社更生欠損金と損益通算される保証はなく、文理上もこれを示す文言はないと主張するが、税法上の損金が一定の利益の存在、確定を前提とするとは一概にはいえず、法二二条三項などのような法に基づき損金算入の可否を決すべきものであるうえ、本件では評価益等の収益による所得を実質的に非課税所得として取り扱えば足りるから、当然に右所得金額が限度となり、その前提に評価益等が存在するのは明らかで、評価益等が益金として青色申告欠損金と通算されることを前提に本条項の括弧書き部分で二重控除を防ぐ趣旨及び法五七条、五八条との適用順序を決める趣旨を意図して立法されており、本条項の文言上、評価益等の全額が会社更生欠損金と対応すべきものとは解しえないから、被控訴人の主張は失当である。

被控訴人は、本条項が評価益等を「益金に算入しない」とし、法五九条が贈与益等を「損金の額に算入する」としており、両者は規定の文言上明らかに相違し、両者を全く同一に解するには無理がある旨主張するが、法五九条は、昭和四〇年の法人税法全文改正に際し、繰越欠損金の範囲等の明確化を図りながら、その適用範囲等につき法に規定されたが、それ以前でも、旧基本通達により「法人の資産整理に当たってなされた重役、その他の私財提供(債務免除を含む)又は銀行の預金切捨てによる益金であって法九条五項の規定の適用を受けない繰越欠損金(欠損金と積立金とを併有する場合はその相殺残額)の補てんに充当した部分の金額は課税しない」とされ、右「課税しない」とは一般には繰越欠損の補てんに充当した部分の金額についてのみ課税を免除し、益金に算入しないことを認めるものと解されていたところ、昭和四〇年当時、右基本通達の法制化に当たり、当初、資産整理に伴う役員等からの私財提供益のうち、その法人の繰越欠損金額に達するまでの金額を益金不算入とする制度を設ける予定であったが、法五九条の規定が私財提供益又は債務免除益については繰越控除の対象とならない繰越欠損金に相当する金額を限度として直接課税対象となる所得金額に算入しない趣旨であるものの、私財提供益又は債務免除益は法二二条の規定によれば本来益金の額に算入すべきものであるのに「益金の額に算入しない」とするのは適当といえないため、私財提供益又は債務免除益を益金に算入するが、同時に繰越控除の対象とならない繰越欠損金のうち、私財提供益又は債務免除益に相当する金額を損金の額に算入する制度と改められたもので、法五九条の右立法経緯に照らしても文言の相違が直ちに趣旨の違いを表すとまではいえず、本条項を法五九条と同列に解すべく、これに反する被控訴人の主張及び原判決の判示はいずれも失当である。

2  解釈の体系的整合性

本件訴訟では、法五七条、五八条の適用に当たり本条項との適用順序が問題とされており、被控訴人らの主張する本条項の誤った解釈に従えば、法五七条一項、五八条一項の繰越欠損金が適正に計算されず、会社更生欠損金が青色申告欠損金に転化して五年の期間制限を無視し、そのために生じた繰越欠損金により更生計画認可後の利益に課税を生じさせない結果となり、後続の事業年度による更生会社の事業活動による所得の課税を一般の法人と比較し、著しく有利に扱うもので、課税公平、租税公平の原則に反することは明らかである。

すなわち、会社更生法一七七条の評定に基づく更生計画案における昭和五三年五月一日現在の貸借対照表の記載価額と更生手続開始決定により終了した事業年度の確定申告書の記載価額との差額である評価損益(評価益と評価損の差額は三二五億五三二四万五〇〇〇円)は、税務上昭和五四年四月期の確定申告上計上すべきにもかかわらず、被控訴人は更生手続開始決定後の事業年度の会計処理を不当操作し、特に昭和五七年四月期に集中して計上のうえ申告し、認可後の後続事業年度により多くの青色申告欠損金を繰り越そうとしたものである。

本条項は、法人税の特例とされ、担税力その他の点で同様の状況にありながら、特定の政策目的実現のため税負担を軽減することを内容とする租税特別措置のうち、会社更生という目的実現のため、税負担を軽減する租税優遇措置で、更生会社に利益になることは会社更生法及び法が予定するところであるが、その際の租税の優遇の程度が問題であり、不合理な優遇は税負担を国民に公平にとする租税公平主義にも抵触し、被控訴人の解釈及び原判決の判断は更生会社に対する行き過ぎた優遇に当たるから、不当である。

三  被控訴人の主張の補足

本条項は以下にみるとおりその文理に従い法五七条一項と同時に重畳適用されると解釈されるべきもので、そうすると控訴人主張の会社更生欠損金と青色申告欠損金を損益通算したのと同一の結果となるものであり、右解釈は、税法の論理体系、本条項の立法趣旨、法の諸規定(特に法五七条、五九条)との整合性及び会社更生手続遂行との関係の諸点からみても合理的であり、逆に、控訴人主張の本通達に従うことは本条項の文理を離れ、憲法上の租税法律主義の大原則にも反する。

1  本条項の文理解釈

本条項は、文理上、本文により、更生会社の評価益等が更生手続開始前からの繰越欠損金の限度で益金発生事業年度における法の所得計算上「益金の額に算入しない」ことを、括弧書き部分により、更生手続開始前からの繰越欠損金は法五七条及び五八条の適用を受ける青色申告欠損金とそれ以外の会社更生欠損金に区分され、青色申告欠損金の繰越し、すなわち、当期事業年度の損金算入(法五七条一項)が更生会社にも行われるとともに、会社更生欠損金に対応する部分の評価益等のみが「益金不算入」の対象となることを、それぞれ示している。そうすると、本条項上、当該益金との通算対象となる会社更生欠損金と青色申告欠損金は明確に区分され、会社更生欠損金については当該益金の当期益金への益金不算入により、青色申告欠損金については欠損金自体の当期損金への損金算入により、いずれも損益通算を重畳的に行うことができ、他方、法五七条一項但書によれば、同項の適用を受ける青色申告欠損金の繰越控除額自体は同項にいう「本文の規定を適用しないものとして計算した場合における当該事業年度の所得の金額」(以下「所得額の仮計」という。)の確定を待って初めて確定することとなるから、本条項と法五七条一項の文理上、まず、会社更生欠損金に対応する部分の評価益等が当期の益金から控除されて当期の所得額の仮計が確定され、次いで、右当期の所得額の仮計を前提として青色申告欠損金の当期損金への算入額である繰越控除額が確定され、最終的に当期の所得金額が確定するもので、結果的には、会社更生欠損金が青色申告欠損金に優先して損益通算されたのと同じになることが明らかである。これに対し、控訴人は、本通達により法五七条一項を本条項に優先適用すべきであると主張するが、右通達の解釈は、第一に、更生会社の評価益等を益金に算入する点において本条項の文理に明らかに反すること、第二に、会社更生欠損金を当期損金に算入して繰越控除するとの解釈が本条項の文理から直接導くことはほとんど不可能であること、第三に、会社更生欠損金で損益通算できるのは評価益等に限られるべきであるのに本通達にはその限度がないこと、からして、本通達により青色申告欠損金の繰り越しを優先させて会社更生欠損金との損益通算による課税減免範囲を大幅に減縮させるという納税者に不利な結果を法律に優先させて生じさせるもので、憲法上の租税法律主義の大原則にも違背するといわざるを得ない。

2  税法の論理体系

以下にみるとおり、税法の論理体系からも、本条項のような「益金に算入しない」旨の規定は、非課税規定であって、欠損金の繰越規定である損金算入規定とは区別されるべきもので、本条項による益金不算入が法五七条一項による損金算入に優先することには合理性がある。

(一) 本条項の非課税規定の趣旨

法人税の課税物件は法人の所得であり(法二一条)、右所得金額は益金の額から損金の額を控除して計算されることとなっており、益金不算入とされた場合はそもそも課税が生じる余地はなく、当該益金を実質的に非課税とする趣旨と解すべきことは明らかであるのに反し、損金算入とされた場合には、算入された損金に対応する益金が存在して初めて課税額を減らす効果が生じるもので、この点において益金不算入の場合と区別でき、過年度欠損金の当期損金への損金算入規定は欠損金を繰り越す規定であるから、本条項は益金不算入規定であって、当該益金を非課税とする趣旨の規定と解すべきものである。

これに対し、控訴人は、法が、所得計算上非課税とする場合には「法人税を課さない」旨を明文で規定しており(法六、七条)、評価益等を法による所得計算上非課税とするためには右明文が必要と主張するが、法は課税物件である所得に該当するものにつき課税しない場合に「法人税を課さない」旨を規定しているもので、評価益等の課税物件の構成要素にすぎない益金につき用いられるものではなく、このことは所得税法や所得税法の概念を前提とする当せん金付証票法においても課税物件である所得につき課税しない場合に「所得税を課さない」と規定していることからも明らかであり、控訴人の主張は、右のような税法の体系的用語を無視し、本条項の実質的非課税の趣旨を隠蔽しようとするもので、失当である。

(二) 当期益金への益金不算入の過年度欠損金の損金算入に対する優先

法の定める所得計算の論理上、益金が確定された上で損金が控除されるから(法二二条一項)、益金の確定が優先することは明らかであり、控訴人の主張する法五七条一項の優先適用を認めることは、本条項により本来益金から非課税として除外されるべきものが、課税対象として損金と通算されることを認めることとなり、論理上、背理する。さらに、本条項は、評価益等の当期益金への不算入を定めるもので、当期所得の確定のため適用されるべきものであり、法五七条一項は、過年度累積欠損金の当期損金への損金算入すなわち欠損金の繰り越しを定めるもので、同条但書は当期所得の確定を前提として繰越控除額(損金算入額)を確定するという構造をとっていることからも、本条項による益金不算入を法五七条一項による損金算入に優先させざるを得ない。これに対し、控訴人は、法の所得金額の計算構造上、益金不算入と損金算入とはいずれも税務調整における減算項目にあたり、評価益等の益金不算入が繰越欠損金の損金算入より優先的に行われることを意味しない旨主張し、被控訴人も、所得計算が確定した決算に基づく企業会計上の損益を基礎に租税政策上の理由から税務調整として種々の加算・減算が行われること自体は否定しないが、同じ減算項目にあたるとされる益金不算入と損金算入とでは、前者が益金そのものを計算上除外して課税を生じさせない直接的な減算項目であるのに対し、後者は損金を増加させることによりそれに対応する益金の存在を前提にして課税所得を減少させる間接的な減算項目で、あくまで益金の存在・確定を前提とする減算項目であり(このことは、法四二条以下において、圧縮記帳の損金算入において国庫補助額(贈与益額)や保険差益額が圧縮限度額とされていることなどからも、法文上も明らかである。)、その減算項目としての性質上区別されるべきもので、本件では、当期益金の益金不算入と過年度欠損金の当期損金への繰り越しによる損金算入が問題とされ、既にみたとおり、過年度欠損金の当期損金への損金算入は当期所得の存在・確定を前提としており、欠損金の繰越額を定めるうえからも当期益金の益金不算入が優先すべきことは明らかであり、控訴人の前記主張は、税務調整という概念で法の基本的な計算構造を隠蔽するもので、失当である。

3  本条項の立法趣旨とその整合性

本条項を文理解釈に従い益金不算入規定として評価益等を実質的に非課税にする趣旨と解することは、以下にみるとおり、会社更生制度と法人税制度とを体系的に整合させようとする立法趣旨に合致し、企業会計理論、税法及び会社更生法上の諸点を総合考慮しても合理的である。

(一) 本条項の立法趣旨

会社更生法の立法趣旨は危機に瀕して多額の欠損金のある更生会社について債権者の権利に一律の変更を加えて観念的に清算配当するとともに一定の事業資金を会社に留保し会社の収益力を回復させて会社の事業の維持更生を図ることにあり(同法一条)、右観念的清算のため、更生管財人による手続開始時点での評価換え(同法一一七条)により企業継続価値による会社財産の評価を強制し、会社財産を正当に把握して配当原資を確定し、さらに、更生計画の認可による債権者の権利の免除・失権(同法二四一、二四二条)により利害関係人の権利を一律的に変更・再編成して弁済総額を確定するものである。従って、更生会社は手続開始時点で試算の評価換えによる再評価を行うとともに右時点で確定される負債(更生債権)につき後日更生計画により再評価するから、右評価変え及び計画認可により資産評価益及び債務免除益が必然的に生じるが、右資産評価益は実際の取引による対価として積極的財産を得るものではなく、また、債務免除益も債務が減額されるという利益は残るものの積極的財産が増加するものではなく、いずれも、現実に事業活動に利用すべき短期の事業資金の面からみれば、計数上の利益として実体の伴わないものというべく、これらの評価益等を税法上の益金として課税すれば、支払原資となる積極的財産の増加がないので、事業活動継続のための資金繰りに困難が生じ、ひいては、会社の維持更生に支障をきたすことになるから、会社更生手続に必然的に伴う評価益等は手続遂行上非課税とされる必要があり、そのような特典が税法上更生会社には必要となる。また、法人税法上は法人に欠損金の繰り越しによる損益通算制度が認められ、これを更生会社に認めない合理的理由はなく、会社更生手続開始後の通常の事業活動から生じる益金を連続する期の損金と損益通算することも認められる必要がある。本条項は、以上のような会社更生制度と法人税制度とを体系的に整合させるべく、会社更生法上、一般法である法人税法の特例として規定されたもので、会社更生の基本構造によれば、前記のとおり資産評価益、債務免除益は手続開始時に更生会社を再評価して生じるもので、右再評価の目的は累積繰越欠損金を消去して更生会社を健全な会社として再出発させることにあるから、右評価益等を会社更生手続開始時までに生じた累積繰越欠損金の填補に充当して損益通算することは合理性があり、右損益通算により会社更生手続に必然的に生じる益金に課税が生じないようにする余地があり、他方で、右累積繰越欠損金を青色申告欠損金と区別し、欠損金の繰り越しとの間で損益通算方法を工夫し、右累積繰越欠損金の損益通算と青色申告欠損金の繰越控除が両立する余地もあるため、本条項は、会社更生法の趣旨から、更生会社の更生を重視し、前記の会社更生手続に必然的に生じる評価益等と会社更生手続開始前の累積繰越欠損金とを損益通算して課税が生じないようにするとともに、法上の欠損金の繰越規定による開始後の事業活動による益金と青色申告欠損金との損益通算を認め、これら両方の課税減額措置を受けさせるよう規定されたものであり、右立法趣旨を具体化するため、評価益等を「所得の金額の計算上、益金の額に算入しない」と非課税とし、青色申告欠損金を損益通算対象たる益金から除外し、次に、通算対象となる欠損金が重複しないように括弧書き部分により会社更生欠損金と青色申告欠損金とを概念的に区別して規定したものである。

(二) 企業会計理論上の合理性

企業会計理論上、更生手続開始前からの繰越欠損金は資本の欠損にあたり、その填補に評価益等を充当するのは資本取引と解されるところ、各期の損益は各期の損益取引から算出すべく、損益の増減に関係のない資本取引は損益取引から除外されるべきもので、また、所得は資本取引から生じないとする原則は税法上も明らかである(法二二条二項、三項)。ところで、資産の再評価により生じた評価益は、企業会計理論上、資本剰余金とされて益金に算入されず、税法上も、従前、資産再評価法等により積立られた再評価益は資本準備金に組入れられていたから、このような評価益を原資として資本の欠損に充当されること自体、資本の取崩しと同様に資本取引というべく、また、株主の贈与や債務免除による益金が資本の欠損に充当される場合は、資本払込の方法によらない資本填補であり、追出資とみなすべきもので、これを収得した企業にとり資本取引による資本剰余金の発生を意味し、株主以外の者の債務免除等の益金が資本の欠損に充当される場合も、同様に資本取引による資本剰余金に算入し、益金に算入しないことが会計上の一般原則というべきである。ただ、法人税法は、債務免除等を資本取引と認めていない(法二二条五項、二条一六号、一七号)が、これは債務免除と資本欠損充当目的との関連性等の立証の困難性を考慮して資本取引の範囲を限定しているだけで、理論的に資本取引にあたること自体まで否定する趣旨ではなく、会社更生法上の債務免除益が資本欠損充当目的であることは、会社更生制度の基本構造からして明らかであり、通常の取扱のように資本取引から除外しなくてもよい合理性があるから、資本の欠損に評価益等を充当することについては、企業会計理論上、資本取引として非課税とする十分な合理性がある。

(三) 税法上の合理性

法人税法上の益金は、企業会計原則上の実現主義を前提とし、現実の徴税のための支払原資が確実に入手される必要から、未実現利益を排除し、取引に係る収益として実現されるべき利益をいうとされる(法二二条二項参照)ところ、資産評価益は、その性質上、そもそも取引により実現されるべきものではないから、益金の対象とならないことは明らかであり(二五条一項参照)、法二五条一項括弧書きが会社更生法の規定による評価換えから生じたものを除外するのは、本条項を前提に評価換えから生じる益金を資本の欠損に充当して残額がある場合に課税が起こりうることを示すためであり、他方、債務免除益については、一般的な債務免除の場合には取引により実現したものといいうるが、更生会社の一般債権者、担保権者、株主等の利害関係人の権利が更生計画により一度に調整を受けるような債務免除までが、税法が予定する取引により実現したものといいうるか疑問がある。従って、資産評価益及び債務免除益については、税法上の性質からみて、本質的に非課税益金であるとまで言えないとしても、その性質上、直ちに支払原資を納税者にもたらすものではないので、実現した利益として確実に課税しなければならないとまではいえず、非課税とすることが許される性質のものである。

さらに、評価益及び債務免除益のうち更生手続開始前の繰越欠損金に充当される部分につき非課税とすることは、税法上は、会社更生手続開始後に生じる益金から評価益及び債務免除益という会社更生手続特有の理由により生じるものを除いた会社更生手続開始後の事業活動による益金と青色申告欠損金の繰り越しによる損益通算の趣旨が後記4のとおり人為的な法人の事業年度の利益調整のために認められたものであることを考慮すると、右のとおり会社更生手続開始後に生じた益金から会社更生手続特有の益金を除外した残額である会社更生手続開始後の通常の事業活動による益金と青色申告欠損金とを損益通算させることは右欠損金繰り越しの趣旨にも合致するから、評価益等を非課税とすることは合理的である。

(四) 会社更生法上の合理性

会社更生手続は、会社の再建を目的として、その維持、存続を前提に利害関係人の権利の調整を行う観念的清算手続であり、その利害関係人としては、一般債権者や租税債権者も含まれるところ、評価換えによる評価益が生じたことは、更生手続開始時点で会社財産に帳簿価格以上の実際的価値があったためで、従前の帳簿価格を基礎に欠損金が計上されていたとしても、その欠損金は差額(評価益)の限度では存在しなかったものと扱われるべきであるから、このような計数上の益金について課税を生じさせることは、租税債権者を不当に優遇することとなるので、このような評価益を非課税にすることは合理性がある。さらに、会社更生手続により生じる債務免除益は会社更生法二四一条による更生計画の認可により利害関係人の一律的調整の結果として債権者の犠牲において生じるもので、右犠牲は、会社の再建により弁済が確実とされ、また、他の利害関係人の権利も調整されることで初めて合理化されるというべきところ、このような債権者の犠牲において生じた債務免除益で、企業会計理論上は非課税とされるような更生手続開始前の欠損金に充当されうる部分に課税し、更生会社の資金を流出させて再建に支障を来させることは租税債権者を不当に優遇することになるから、右債務免除益を非課税にすることも合理性がある。したがって、会社更生法上の観点からも、資本の欠損に充当した評価益等を非課税にすることは合理性がある。

4  法五七条一項の立法趣旨との整合性

法五七条一項による青色申告欠損金の損金繰入は、法人の事業年度を人為的に決めたことから企業の成果を長期的に測定するためある事業年度の事業活動により生じた欠損金を前後の事業年度の事業活動により生じた利益と通算することが合理的との考えから法人の所得評価上当然に認められるもので、他方、本条項は、会社更生手続上生じる評価益等につき、更生手続開始前の繰越欠損金から青色申告欠損金を控除した会社更生欠損金に損益通算されるべき部分につき非課税とした更生会社特有の理由による特典を認める保護規定であるから、評価益等を会社更生欠損金と損益通算した後に、開始後の益金から右評価益等を除外して残った開始後の事業活動による益金と青色申告欠損金の損益通算することは、本条項の立法趣旨に沿うのみならず、法五七条一項の立法趣旨にも整合するものである。

5  本件会社更生手続について

控訴人は本件会社更生手続における開始決定後の青色申告欠損金の大半が評価損を発生原因とする費用で、右青色申告欠損金は評価益と同じ評価換えにより生じているから損益通算するのが合理的と主張するが、青色申告欠損金の大半が費用という前提が偶然の事情に左右されることであって、被控訴人の場合には、本件更生手続開始決定から更生計画認可決定の直前期までの事業年度の法人税申告における欠損金額は合計約四〇一億一〇〇〇万円(一〇〇万円以下四捨五入)で、そのうち会社更生法に基づく評価損は合計約一二六億六二〇〇万円(〈証拠〉)と欠損金額の約三分の一に過ぎないばかりか、理論的にも、法は更生手続開始の前後により青色申告欠損金の性質が異なることを予定しておらず、むしろ、本条項の括弧書き部分は法五七条の規定を更生手続開始の前後に関係なく適用することを前提としており、評価損は評価益と違い、更生会社だけでなく一般会社でも著しい時価の低下や低価主義の採用により生じ、評価換えによる評価損の計上目的はいずれも高く評価されすぎた資産の評価を正当な評価に切り替えて会社資産を充実させて適正な損益計算により利益配当の配当原資を確定させることにあり、更生会社と一般会社の場合とで本質的な違いはなく、右評価損の計上によって更生手続開始の前後により経理環境が変わるといえず、管財人が、会社更生法上、活動につき善管注意義務を負い(九八条の四)、裁判所の監督に服する(九八条の三)ことからも、更生会社の経理に恣意の入る余地はなく、更生手続特有の理由から生じた評価益等を青色申告欠損金と損益通算するのは合理的ではない。

6  法五九条の規定その他規定との整合性

(一) 法五九条との整合性

法五九条は会社整理・破産・和議等の場合(法施行令一一七条)に過年度欠損金の当期損金への繰り越しを認めた損金算入規定で、同条所定金の繰り越しと青色申告欠損金の優先順位の決定を税務政策上政令によることを法が容認しているのに対し、本条項は会社更生手続における評価益等の益金不算入規定で、規定上、損益通算すべき欠損金を概念区分して会社更生欠損金が青色申告損金に優先することを明示し、両者は、規定の体裁を異にする。また、法五九条は、和議・破産・会社整理のみならず、任意整理でも適用され、私財提供益については会社経営に密接な関係にある会社役員もしくは株主等一定の者から債権者らのために会社破綻の責任を取り得るようにし、債務免除益については累積欠損金があるのに債権者らの犠牲により債務免除益の計上時に課税が生じるのは酷ということからする一般的税務政策規定であるのに対し、本条項は、対象が株式会社に限定され、担保権者をも手続的制約下におくばかりか、多数決原理に基づく徹底した再建型倒産処理手続で、より徹底した減税措置がなされても合理性を有し、本条項自体が更生手続特有の評価益等を会社更生欠損金により損益通算したうえ、一般の青色申告欠損金の適用により企業自体の再建を容易にする目的を持つ会社更生制度自体に組み込まれた規定であり、両者は立法趣旨が異なるから、その青色申告欠損金との優先順位の差も合理性がある。

(二) 措置法六六条の一四との適合性

税法体系上、青色申告欠損金が特別の欠損金に優先するとの原則はなく、個々の規定の文言及び立法趣旨を勘案して優先順位を決定すべきものであり、措置法六六条の一四は石炭鉱業を営む法人で、石炭鉱業再建整備臨時措置法に規定する交付金を受けるものにつき過年度欠損金の当期損金への繰り越しを認めた損金算入規定で、規定上、青色申告欠損金の繰り越しが同条所定の欠損金の繰り越しに優先することが明示されているが、これに対し、本条項は前記(一)のとおり会社更生手続における評価益等の益金不算入規定で、規定上、損益通算すべき欠損金を概念区分して会社更生欠損金が青色申告欠損金に優先することを明示しているもので、両者は、規定の体裁を異にする。また、措置法六六条の一四の立法趣旨は、石炭鉱業再建整備臨時措置法が構造不況業種である石炭産業の再建整備をはかるために交付金の交付を定めるところ、右法人が欠損金の繰越控除の適用のない古い欠損金を抱えていることが多く、過年度欠損金を抱えながら交付を受けた交付金に課税されたのでは石炭鉱業再建整備臨時措置法の交付金交付の目的が達成できないために設けられた政策的規定であるから、当該交付金の計上時に課税が生じなければ足り、これに対し、本条項は、会社更生手続開始時点で更生会社が資産・負債両面で再評価されることを前提に、更生会社の再評価により生じる評価益等をこれに対応する会社更生欠損金と損益通算したうえ、一般の青色申告欠損金の規定の適用も受けて、企業自体の再建を容易にする目的に出た規定であると解され、両条文は立法趣旨が異なるから、その青色申告欠損金との優先順位の差も合理性がある。

7  会社更生手続との関係

更生計画立案上は、計画認可後の資本金額と権利変更後の総債務とが一致するのが望ましいが、計画認可時に多少の資本の欠損が残存しても、再建途上の会社として、予想される手続終結時までに右資本の欠損が解消できる限り、右取扱いは許容されるというべく、被控訴人主張のとおり本条項が評価益等を会社更生欠損金に非課税にて填補する規定と解することは、残存する欠損金が青色申告欠損金であることを意味し、認可後に生じた益金を無税で欠損金に填補し、更生会社からの流出資金をできるだけ減らすこととなり、更生会社の更生にも資することとなる。

8  控訴人の主張の補充1(二)について

控訴人は、本条項が益金不算入の規定であるとすれば、後続の事業年度の所得の関係についてなんらかの規定が必要であると主張する。しかし、本条項による益金不算入の対象である益金は評価益と債務免除益であるが、このうち後者は当期の負債の減少から生ずるものであって、後続の事業年度の資産、負債の勘定に影響を与えないから、後続の事業年度の所得計算にも影響を与えないことが明らかである。前者についてみると、法二五条一項の括弧書きの規定により、更生手続による資産の評価益は同項の適用を受けないため所得計算上益金の額に算入され、その評価益分だけ増額された資産はそのまま帳簿価額として受けいれられるが、本条項によって右評価益は会社更生欠損金と損益通算される限度で消滅して益金不算入とされる。この場合でも、評価益分だけ増額された資産はそのまま帳簿価額として受けいれられると解される。そして、更生手続により評価換えされた資産の評価額は益金不算入に関係なく資産の取得原価として扱われるから(会社更生法一八二条一項)、後続手続の譲渡によっても譲渡益金は右取得原価部分について生じない。したがって、益金不算入とされた部分は後続の事業年度において課税対象とならないことが明らかであり、後続の事業年度の所得計算との関係での規定を必要としない。

次に、控訴人は、本条項を益金不算入の規定とすると、評価益等が会社更生欠損金の額を超える場合には評価益と債務免除益との間で益金不算入の順序に関する規定が必要であるなどと主張する。しかし、評価益及び債務免除益の額が確定していれば、どちらの勘定科目を益金不算入としても、益金に算入されない額は同一であって、所得金額に差異を生ずることはない。また、評価益のうちでどの資産の評価益を益金不算入とするかの点についても同様であって、所得金額に差異をきたすことはない。

さらに、控訴人は、会社更生欠損金と青色申告欠損金が存する場合には、評価益等のいかなる部分を本条項による益金不算入とし、いかなる金額を法五七条一項による損益通算の対象とするかの法的手当てが必要であると主張する。しかし、右の場合には、まず会社更生欠損金が存する限り益金不算入とし、次いで残額を青色申告欠損金との損益通算との対象とすることは明らかであり、この順序に従う以上、損益通算の対象とする勘定科目の如何にかかわらず、所得金額に差異はでてこないから、法的手当ては不要である。

なお、控訴人の立場においても、会社更生欠損金と青色申告欠損金が併存する場合に、評価益との債務免除益のいかなる部分を青色申告欠損金との損益通算対象とし、会社更生欠損金との損益通算対象とするかについて、控訴人が問題とする点が生ずることは同じである。

理由

一当裁判所も被控訴人の本訴請求は原判決が認容した限度で正当と認めるものであって、その理由は次に付加、訂正、削除する以外は原判決の理由説示と同一であるからこれを引用する。

1  原判決三七枚表九行目の「処分」の次に「と同一」を加え、同三八枚目裏一行目の「繰越され」を「順次、繰り越され」と、同三九枚目表一一行目の「ことにある」を「ことにあり、特に国税に関する処分に関する不服審査については、対象となる処分が大量かつ回帰的になされるばかりでなく、その際の課税標準等の認定が専門技術的な性質を持つから、右審査によりまず事案を熟知している処分行政庁の知識と経験を活用して前記のとおり紛争の迅速な自主的解決を図り、あわせて、税務行政の統一的運用に資することにその制度の存在意義がある」と、それぞれ改め、同裏五行目の「不服申立をし」の次に「て行政庁等の判断を経」を加え、同四〇枚目表七行目の「繰越され」を「繰り越され」と、同四一枚目裏一行目の「継続して繰越され」を「順次、次年度に繰り越され」と、それぞれ改め、同四四枚目表四行目の「趣旨は、」の次に「既に3においてみたとおり」を加える。

2  同四六枚目表一〇行目、同裏末行、同四七枚目表一行目の「繰越さ」を「繰り越さ」と、同四八枚目表五行目末尾の「ものの」を「が」と、同五一枚目裏二行目の「本条項の趣旨」を「本条項の立法経緯とその趣旨」と、同五行目の「繰越さ」を「繰り越さ」と、それぞれ改め、同一〇行目から同一一行目の「定めているところ、」の次に「まず、右規定の立法及び改正の経緯についてみるに、〈証拠〉によれば、次の事実が認められる。すなわち、本条項は、青色申告を提出した法人の五年以内の繰越損金の損金算入を認めていた旧法人税法(昭和二二年法律二八号)下において、会社更生法の立案に際し、当初の昭和二六年一月二〇日付草案では、「窮境に陥る虞のある株式会社の破綻を防止し債権者、株主等の利害を調整しつつ会社の事業の維持更生を計ることを目的」として、「更生計画による会社の財産の譲渡または評価換、債務の消滅、資本の減少に因る益金その他更生に因って生ずる益金は、法人税法(昭和二二年法律二八号)による各事業年度の所得、又は地方税法(昭和二五年法律二二六号)により事業税を課する場合に於ける各事業年度の所得の計算上これを益金に算入しない」旨の法人税法等の特例として更生によって生ずる利益の全額益金不算入の規定として立案され、次いで更生手続開始時から更生計画認可又は更生手続終了までを特例事業年度とするとともに、「更生手続による会社の財産の評価換え及び債務の消滅による益金は、法人税法(昭和二二年法律二八号)による各事業年度の所得又は地方税法(昭和二五年法律二二六号)により事業税を課する場合における各事業年度の所得の計算上これを益金に算入しない」とされ、さらに、「更生手続による会社の財産の譲渡又は評価換及び債務の消滅による益金で更生手続開始の時までの各事業年度の法人税額(利子税額を除く。)及び更生手続開始前から繰り越された損金の額の合計額から更生手続開始の時における積立金額を控除した金額に達するまでの金額は、当該財産の譲渡若しくは評価換又は債務の消滅のあった各事業年度の同法による所得又は地方税法(昭和二五年法律二二六号)による事業税の所得の計算上益金に算入しない」とされたが、主税局から、租税に関する事項を会社更生法案から削除し、租税法規(実体法及び租税特別措置法)において規定することが適当であるとの意見とともに、「更生手続による会社の財産の評価換及び債務の消滅に因る益金で、更生手続開始の時において納付すべき当該開始の時を以て終了する事業年度以前の各事業年度の法人税額(利子税額を除く。)及び当該開始の時においてその開始の時前から繰り越された損金のうち九条五項の規定の適用を受けない損金の額の合計額から更生手続開始の時における法一六条一項に規定する積立金額を控除した金額に達する金額は、当該評価換又は債務の免除のあった各事業年度の法人税による所得又は地方税法(昭和二五年法律二二六号)により事業税を課する場合における所得の計算上益金に算入しない」とする対案がだされ、草案が「更生手続による会社の財産の評価換及び債務の消滅による益金で更生手続開始の時までの各事業年度の法人税額(利子税額を除く。)及び更生手続開始前から繰り越された損金(法九条五項の規定の適用を受ける金額を除く。)の額の合計額から更生手続開始の時における同法一六条一項に規定する積立金額と法人税(利子税額を除く。)の引当金との合計額を控除した金額に達するまでの金額は、当該財産の評価換又は債務の消滅のあった各事業年度の同法による所得の計算上益金に算入しない」と修正されるとともに、これに続き「前項の場合においては、法九条五項の規定は適用しない」として青色申告を提出した場合の繰越損金の損金算入規定の適用はないものとされ、さらに、「更生手続による会社の財産の評価換及び債務の消滅による益金で、更生手続開始の時までの各事業年度の法人税額(利子税額を除く。)と更生手続開始前から繰り越された損金(法九条五項(青色申告書を提出した場合の繰越損金の損金への算入)の規定の適用を受ける損金を除く。)の額との合計額から更生手続開始の時における法一六条一項(積立金)に定める積立金額と法人税(利子税額及び延滞加算税額を除く。)の引当金との合計額を控除した金額に達するまでの金額は、当該財産の評価換又は債務の消滅のあった各事業年度の同法による所得の計算上益金に算入しない」と再修正されたうえで、右再修正後の文言により昭和二七年六月七日法律一七二号公布の会社更生法二六九条三項として更生手続による会社財産の評価換又は債務の消滅があった場合の法人税の軽減の特例規定として成立し、同年八月一日から施行されたもので、その後、昭和三四年法律一九六号、昭和三七年法律六七号により一部改正された後、所得税法及び法人税法を含む基本的な租税制度の整備のため昭和四〇年法律三四号により法人税法が全文改正されたことに伴う同年法律三六号による会社更生法の一部改正により「更生手続による会社の財産の評価換及び債務の消滅による益金で、更生手続開始前から繰り越されている法二条二〇号(定義)に規定する欠損金額(同法五七条一項(青色申告書を提出する法人の繰越欠損金の損金算入)又は五八条一項(青色申告書を提出しない法人の災害による繰越損失金の損金算入)の規定の適用を受けるものを除く。)に達するまでの金額は、当該財産の評価換又は債務の消滅のあった各事業年度の同法による所得の金額の計算上益金に算入しない」と改正され、昭和四二年法律八八号による会社更生法の一部改正に際しては、本条項を改正して債務免除益及び資産評価益の全額を益金の額に算入しないこととする改正意見も出されたが、資産の評価益は、一般の場合には、法二五条により、各事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入されないものの、資産の譲渡が行われ、評価益が現実化したときに益金として計上されるから、更生会社のみ資産の評価益の全額が益金に算入されないとすると、一般の場合と著しい不均衡をきたすとして右全額不算入への改正は実現せず、さらに、昭和四三年法律二二号による会社更生法の一部改正により現行の文言となった。右立法、改正の経緯に照らせば、本条項はもともと更生会社の評価益等の全額を益金不算入とすることを企図して立案され、その後、立案の過程で不算入額に一定の限度が設けられたものの、立法及び改正の過程を通じ一貫して「益金の額に算入しない」旨の文言が用いられていることは明らかである。」を加え、同五一枚目裏一一行目の「その趣旨は、」を「ところで、本条項の立法趣旨は、窮境にあるが再建の見込みのある株式会社について、債権者、株主その他の利害関係人の利害を調整しつつ、その事業の維持更生を図ることを目的として」と、同五二枚目裏六行目の「立法趣旨と、」を「立法、改正の経緯及び立法趣旨と」と、それぞれ改め、同五三枚目表五行目の「画する」の次に「ことにより観念的清算を行う」を加え、同七行目の「更生会社に」を「更生会社自体に直接」と改め、同一〇行目の「なく、」の次に「前記会社更生手続の目的達成のために」を、同裏四行目の「免除益を、」の次に「前記累積繰越欠損金を填補する限度内で」を、同五四枚目裏四行目の「本条項は、」の次に「前記(1)①でみた立法経緯によっても、益金の不算入額が問題とされたことはあるものの、」を、同五行目の「関係」の前に「優先」を、同行の「念頭に」の前に「明確に」を、同五八枚目表五行目の「手続は、」の次に「会社更生法一条の立法目的にもみるとおり」を、同裏一行目冒頭の「みても、」の次に「前記(1)①で述べたように、」を、それぞれ加え、同行末尾の「(」から同四行目の「。)」までを削り、同四行目の「次いで」の次に「基本的な租税制度の整備のための昭和四〇年法律三四号による法の全面改正により」を、同一〇行目の「必然性はなく、」の次に「このことは、控訴人主張の措置法六六条の一四との関係でも同様であって、」を、同行の「本条項は、」の次に「前記(1)①の立法経緯でみたとおり、租税法規中に規定すべきとの意見を排して会社更生法中に置かれ、租税制度の整備を図って全文改正された昭和四〇年の法改正の際も、その後においても改められなかったことに照らすと」を、同六一枚目表七行目の次に改行のうえ「控訴人が当審において主張する諸点を検討しても、更生会社の累積欠損金に会社更生欠損金と青色申告欠損金とがある場合には、まず評価益等につき会社更生欠損金に達するまでの金額を益金に算入しないこととして益金額を算出し、それから青色申告欠損金の繰越控除をすべきものとする右解釈が不当であるということはできず、まず青色申告欠損金を控除すべきであるとする控訴人の見解は採用しない。」を、それぞれ加え、同六四枚目表七行目、同六五枚目表三行目、同六行目の「更生処分」をいずれも「更正処分」と改める。

二よって、原判決(更正決定を含む)は相当であって、本件控訴は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官石川恭 裁判官福富昌昭 裁判官岡原剛)

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